記憶の話

思い出したくないこと、つまり些細なことからわりと大きなことまでこれまでにやらかした数々のしょうもない失敗を、ふいに思い出して、しばらく嫌〜な気分を引きずる、ということがある。

私はわりと過去の出来事や当時の感情を繰り返し思い出しながら生きているタイプの人間だと思われ、なので嫌な思い出が引っ張り出されてくることも頻繁にある。

ちなみに紛れもなく思い出し回数No.1の消したい記憶は、大学時代、友達のいないクラス飲み会のカラオケで銀杏BOYZを朝まで熱唱し続けたことである。
深夜になるにつれ、1人、また1人と女の子が帰っていき、眠そうな男子たちしか残っていない中、私はマイクを握り絶叫し続けた。
自分がなぜそのような奇行に走ったのかは全くの謎である。ただ、当時1番かっこいいと思っていたのが銀杏BOYZだったこと、やるからにはカラオケでも全力を尽くさなければならないと思っていたこと、後には引けねえという気持ちがあったこと、そもそも当時の私は他の誰かとは違うんだという意識が過大であり、つまりイキッていたことが要因として考えられる。
死にたい………。
そうそう、それで、これですっかり男子の人気者になれたに違いないと思ったが、翌日登校したらむちゃくちゃ無視された。
当たり前である。
この10年間、この事件を何百回思い出して、その都度死にたい…と思ってきたか知れない。当時の自分をぶん殴って帰宅させたい。そうすれば、思い出し苦しむ時間分、他の何か楽しいことを考えられたかも知れない。
いつかこの苦しみから解放される日は来るのだろうか。

というのはさておき、最近思い出すのは、ファストフードのうどん屋でバイトをしていた時のことである。
その日私はレジに立っていた。うどんを受け取り、天ぷらを取り、レジに流れてくるお客さんたちが並ぶ中、突然猛烈な腹痛(下痢のやつ)が私を襲った。
スタッフは各係に1人ずつしか居ない。会計を済ますだけのお客さんはもう目の前に来ている。これから注文する人たちも居る。何とかしのげないかと我慢しようとしたが、既に限界だった。すみません!!と叫び、私はトイレにダッシュした。
10分か15分後、スッキリして戻ると、既に落ち着いたキッチンの中で、うどん係のお姉さんと天ぷら係のおばちゃんがとても悲しい顔をしてこちらを見た。
「大変だったんだよ…」と言われた。とても優しい人たちだった。
すみません、すみませんと謝ったが、職務放棄する奴というレッテルは拭えないだろうと思った。
それ以来、ファストフードのバイトは絶対にしないと決めている。そもそも人間がうんこしたい時に出来ないシステムは間違っている。
しかし2人のあの悲しい顔は、たぶんいつまでも忘れられないだろうと思う。

ごく短時間の、おそらくは些細なことが、いつまでも記憶に残り、全く関係ない時にふいに現れるのはとても不思議だ。
私は今目の前にある現実を、これまでに経験した全ての出来事とともに生きているのだろう。
これはちょっとした発見な気がする。
嫌な気分になっても、そいつと一緒に生きているならしょうがない。
でもなるべく思い出さなくて済みますように。



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